コラム(第31回-第40回)

第40回 「東日本大震災」

 桜の蕾もほころんでようやく春らしくなってきました。しかし、3月11日東北地方を襲った大地震と津波によって多くの人命、財産、思い出が失われました。亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、被災された方にお見舞い申し上げます。粘り強さが身上の東北の方々ですから、きっと今以上の町、生活を再建してくれると信じています。
 今度の震災では、堺市をはじめ多くの都市から医療チームが組織され救助、診療に向かわれました。何も出来なかった私はただただ、彼等に感謝と敬意の念を送りたいと思います。しかし今、私たちが出来ることは何か?と考えたとき自分たちに与えられた仕事をコツコツすることではないかと考えました。ボランティアをできる方はボランティアでも良いでしょうし、社会に貢献できることは何でも良いのであまり大きなことを考えず、コツコツを続けていけば遠回りしても必ず東北の方々の援助に繋がると私は考えています。  この地震では、津波により福島第一原子力発電所にも大変な事故が起こりました。放射性物質の飛散により、現在、原発の半径20km以内は立ち入り禁止区域になっています。飛散状況によっては、もっと拡大するかもしれません。日本中、いや世界中の英知を結集して何とか事故を収束してもらいたいものです。
 しかし、テレビで被爆に関して報告する枝野官房長官の説明には少し違和感を覚えました。国民を安心させるためでしょうが、"10マイクロシーベルトの被爆でこれはCTスキャン1回分の被爆なので健康上まったく問題ない。"という説明です。確かに被爆量としては、CTスキャン1回分と同じかも知れませんが意味がまったく違います。我々医療者は、最小被爆の原則があり、できるだけ患者さんが被爆しないように神経を使います。出来るだけ照射範囲を小さくしたり、照射時間を短くする工夫をします。また、確かにCTスキャンなどレントゲン検査は、被爆を伴いますが、それ以上に得られる情報が有益であるので検査をする訳で、ただ単に理由もなく被爆しているのとは意味がまったく異なるのです。
 難しい話になりますが、被爆による影響として、確定的影響と確率的影響と言う言葉があります。確定的影響と言うのは、ある量の放射線を浴びると必ず出てくる症状のことで例えば、250ミリシーベルトの被爆をすると白血球の減少が起きますし、2000ミリシーベルトの被爆をすると脱毛や出血が起きます。これは被爆量によって決まっています。
 それに対して確率的影響と言うのは、発癌です。例えば100ミリシーベルトの被爆をするとみんながなるわけではないですが、ある確率で癌になる人が出てきます。それは、被爆量が増えれば増えるほど確率が上がることが知られており、1ミリシーベルトより100ミリシーベルトの被爆の方が多いとされています。ですから、我々は出来るだけ患者さんが被爆しないように気を使うわけです。
 では、検査はしないほうが良いのか?無駄な検査は避けるべきです。短い期間に異なる病院で同じ部位のCT検査を受けないなどはそのいい例です。検査を受けた病院のCTを借りて次の病院に持っていけばよいので、新たに検査を受ける必要はないでしょう。また、たまに心配だから検査して欲しいという方もおられます。病気を疑う理由もないのに被爆を要する検査を受けるとそれこそ病気を作ってしまう原因になります。丁度いま、放射線被爆についてマスコミも良く取り上げてくれており、勉強する良いチャンスだと思います。正しい知識を持っていれば、不要な心配や恐れもなくなります。

第39回 「むくみについて」

 年が明けたと思っていたら、あっという間に1月も終わってしまいました。コラムを楽しみにしていただいていた方、ずいぶんサボっていて申し訳ありませんでした。このホームページを管理してくれている会社も新しくなって、移行作業の間コラムの更新が滞っていました。以前のホームページと少し変わったところに気がつきましたか?
 そう、左下にあったアクセスカウンターがなくなったのです。小さな変化ですが、気がつかれたでしょうか?
 さて、最近からだの "むくみ"特に下肢の"むくみ"を訴える方が多く、"何でですか?"とよく聞かれます。"むくみ"の原因は様々で、恐ろしい病気の一症状であることもありますし、まったく気にする必要のないものまであります。
 一番多いのは、自然経過としての"むくみ"で夕方になると浮腫んでくるというものです。人間の体は、体重の60%くらいが水分から出来ています。(新生児で70%、大人で55-60%)水分は、重みがあるので1日生活していると徐々に重力の関係で下へ下へと降りてきます。人間にとって一番下というのが下肢ですから、両下肢が一番水分の溜まりやすい場所になります。足の向こう脛を押してみるとぺこんとへこむことがありますか?あれば、それが"むくみ"です。昔から、靴を買いに行くのは夕方に、と言われているのは、夕方に一番足が浮腫むからです。若い時分は、足も筋肉が多く水分が溜まる空間が少ないため実際には目立ちませんが、歳をとってくると筋肉量は減り、結合組織の占める割合が多くなるため、水分は足の血管以外の組織の中に逃げやすくなります。このような生理的な"むくみ"は、夜横になって寝ることで水分がまた上半身に戻っていきますので、朝になればなくなります。このように朝になくなってしまう"むくみ"はまず心配いらない"むくみ"と考えられます。
 また、家でごろごろしている方、歩かない方は、更にこの傾向が強くなります。歩くという運動は、実は下に降りてきた水分を上に押し返すという仕事をしています。最近、足の裏、ふくらはぎなどは第2の心臓と言われ、歩くことで足底が押されたり、ふくらはぎの筋肉が収縮することで、下肢に滞った血液、水分を上へ押し上げてくれることが明らかになってきました。寒いからと家でコタツの中で丸くなっているのはご法度です、セーターを着込んで散歩に出かけましょう。歩くときも、とぼとぼと下を向いて歩かず、胸を張って大股に少し息が弾むくらいのスピードで歩くとふくらはぎもよく収縮し、足底も刺激されて血液の循環が良くなります。
 とはいえ、腰が痛くて歩けない、様々な事情で歩くことができない方、そんな方でも椅子に座ったままで足踏みをする、ふくらはぎをマッサージする、足首を回すなどでかなり解消できるはずです。私は、NHKのテレビ体操が個人的にはとても気に入っています。
 しかしながら、すべての"むくみ"がこのようなものではありません。顔が浮腫む、片方の足だけが浮腫むなどは、心臓の機能低下、腎臓の機能低下、ホルモン異常や血栓など放っておいてはいけない病気のサインということがあります。それを見極めるのは我々の仕事ですので、心配でしたら気軽に質問していただければお答えいたします。

第38回 「インフルエンザワクチン」

暑さ寒さも彼岸までの言葉通りに、お彼岸が過ぎてからようやく涼しくなり、過ごしやすくなりました。
クリニックのご近所の百舌鳥八幡神社のふとん太鼓祭りも、JR阪和線近辺各地のだんじり祭りも無事終了しようやく秋本番という感じです。

これからは、いよいよインフルエンザの季節です。
10月1日から堺市でもワクチンの接種が始まりました
今年のワクチンは、例年の季節性インフルエンザと昨年猛威を振るった新型インフルエンザの両方のワクチンが含まれており、昨年のように2回接種せねばならないということはありません。
季節性インフルエンザは、例年厚生労働省とWHOが今年はやりそうなインフルエンザウィルスを予想し、それに対するワクチンを各製薬メーカーが製造しますが、今年はA香港型とB型が選ばれています。例年入っているAソ連型が流行ると困りますが、大丈夫という判断なのでしょう。この2種に新型インフルエンザを加えた3種類のワクチンを1回の接種で予防しようということです。

インフルエンザワクチンは、受精した鶏卵(受精卵)にそれぞれのインフルエンザウィルスを感染させ、受精卵の中でウィルスを増殖させます。その後、受精卵からウィルスを取り出し濃縮し、このままでは感染力があるのでエーテルという化学物質でウィルスを壊して不活化(感染力をなくすこと)した後、有効成分だけを取り出し製品になります。

ワクチンを接種すると皆さんの体の中で、免疫という外敵を排除する機構が働いてワクチンに対する抗体が作成されます。ワクチンそのものは、インフルエンザウィルスの一部ですから、ウィルスにたいする免疫が出来るわけです。この時過度に免疫が働くと微熱や倦怠感などが出ていわゆるワクチン接種後の副反応(副作用)といわれる現象が起きます。しかし、この準備が出来ると次に本当にインフルエンザウィルスが体内に入ってきた場合、すぐに免疫が働いてインフルエンザウィルスを排除してくれるわけです。通常この免疫が完成するのに2-4週間位かかりますからインフルエンザが流行してから接種しても間に合わないことがあります。また、一般にワクチンは、80-90%の確率で抗体を作ってくれますが、人によっては、うまく抗体が出来ないでインフルエンザウィルスを排除できない場合もあります。ワクチン注射したのに何でインフルエンザにかかるんやーというのはこういう場合です。

ワクチン接種でかなりの確率で感染を予防できるのですから、是非予防接種を受けられてはいかがでしょう?

でもそれでもインフルエンザにかかった場合はどうすれば良いのでしょうか?
とにかく仕事、学校を休む。これは、自分自身を守ると同時にほかの方を感染から守るという意味があります。次に感染後48時間以内ならタミフルやリレンザなど抗ウィルス剤が効果があります。
今年は、更に1回の吸入でよいイナビルや注射薬も使えるようになり我々が使える武器もずいぶん増えました。でも一番の治療は、水分をしっかり取り、とにかく休むことです。熱が出て脱水傾向が強くなると体がへばります。十分な水分を取りましょう。へばった体は、インフルエンザウィルスの絶好の増殖場所になります。免疫を高めるためにも無理をせずとにかく寝ましょう。

でも一番は、予防です。ワクチン接種、よく寝て、よく食べて、手洗い、うがい、基本的なことを守って今シーズンも、インフルエンザにかからず、元気に過ごしましょう。

第37回 「四方山話」

暑い、暑いです。連日35度を超え、通院される患者さんも大変だと思います。テレビや新聞でも連日熱中症に関する話題で持ちきりですが、最近熱中症って本当に怖いと実感する経験がありました。一部の患者さんにはお話しましたが、自分自身が熱中症になるなんて思いもしませんでした。

暑い昼過ぎ、往診を終えクリニックに帰ってくるとなんだかふわふわした感覚に襲われて、妙に眠たいような、座り込んで動きたくなくなるような感じでした。おかしいなと思いながら、のどの渇きは感じなかったのですが、冷蔵庫に冷やしておいたお茶を飲んだところ、300mlのマグカップに何杯飲んでもどんどん飲めるのです。しかも飲むたびに徐々に先ほどからの変な感覚が無くなっていきました。そうか、これが軽症の熱中症なんだ、と恥ずかしながら気が付く始末でした。患者さんには、水分をしっかり取りなさいと、えらそうにくどくど言うくせに自分は頑丈だからとか若いからとか過信していたようです。

しかも、熱中症の怖いところは、体は脱水になっているのに、のどの渇きをあまり感じなかったことでした。もし、これがまだ往診中だったらと思うと少し怖くなりましたが、私でこれなのですから高齢の方は、もっと気をつける必要があると思います。気温が高い時は外出を控えるのは勿論ですが、のどの渇き云々ではなく時間ごとに水分を摂取することをしっかりと心掛けた方が良いと思います。

とはいえ、最近のテレビ報道には玉石混交のような気がします。特に最近怪しいなあと思っているのは、お茶や水だけ摂取すると体の塩分が薄まるので塩を混ぜたり、砂糖を加えなさいという話です。これは本当に必要なのでしょうか?

確かなデータがないので自信を持って言えませんが、人間三度の食事をちゃんと取っていれば十分な塩分を摂取できているはずで、それでなくとも日本人の塩分摂取は多いと言われています。炎天下で仕事をしている方やスポーツマンで汗を多量にかく方は、確かに塩飴など水分と一緒に塩分の補給も必要ですが、普通に生活している方は、お茶や水で十分なのではないでしょうか?兎角、最近のテレビというものは正しいデータもないのになんとなく人が納得しそうなことはそれらしく報道する傾向があります。“あるある大辞典”などのテレビ番組もありましたが、テレビ、新聞などは影響力が強いのですから、情報を垂れ流すだけでなく、確かな検証と情報に基づく報道をして欲しいと思います。 そして、我々は、与えられる情報を鵜呑みにするのではなく、常に疑いの目を持って自分で確かめるくらいのつもりがないとだめなのかもしれません。

第36回 「ジェネリック薬品」

5月の連休も過ぎ、日増しに暑くなってきました。時折、大雨が降って涼しくなりますが、体調を崩しておられる方はいらっしゃらないでしょうか?

私事ですが、5月の連休は、日本泌尿器科総会というわれわれ泌尿器科医にとって最も大きな学会が岩手県盛岡市で行われて、その後十和田湖、八幡平と旅行しましたが、今年は気候も不順でみぞれ混じりの雨が降り東北とはこんなに寒いものかと驚かされましたが、地元の方にお聞きしても今年は異常気象だそうです。

4月になってからジェネリック薬品について患者さんから聞かれることが多くなりました。
“先生、薬局でジェネリック薬品を勧められましたがどうしましょう?”とか“効き目は一緒で値段が安くなると言われました。”など相談されることが多いです。以前コラム27号でジェネリック薬品について書いたことがありますが、ジェネリック薬品は先発品と同じではありません
主要な有効成分が一緒というだけのことです。体の中で吸収されるスピードも血液の中での濃度の動きも薬によって変わってきますから、先発品とまったく同じと言うわけではありません。
人によっては、ジェネリックの方が良いと感じる人もいるでしょうし、逆に先発品のほうが良かったと感じる方もおられるでしょう。私は、泌尿器科のお薬に関しては、自覚症状(自分で感じる症状)が大事だと考えています。

ですから、ジェネリックを服用することに関しては、“一度試してもらってもかまいませんよ。
服用されて、おしっこの出方が悪く感じたら元に戻してくださいね。同じかよくなるようならジェネリックのままにしてもらってもかまいません。“と説明させてもらっていますが、内科的なお薬に関しては少し問題で、例えば血圧の薬に関しても血圧の下がりが悪かったり、あるいは今まで安定していた血圧が急に下がりすぎたりするので、こちらがかなり気を使って観察する必要があります。
薬局によっては、ジェネリックに変えたことを連絡してこないこともあるので患者さんがジェネリックを服用していることに気がつかないことすらあります

なぜ4月から薬局がやけに患者さんにジェネリックを勧めるようになったか皆さんご存知ですか?

我々医療機関や薬局は、診療報酬という国によって決められたお金を一部を患者さんから残りを健康保険組合から診療代として頂いています。2年に一回この診療報酬が改定されるのですが、数年前から国や健康保険組合が負担する診療費が増えてきて財政が厳しくなりました。
そこで安いジェネリックを普及させて医療費の削減を目指したのですが、なかなかジェネリックが普及しません。そこでジェネリックを出す決定権を医師から取り上げて薬局側へ移したのです。
更にジェネリックをたくさん出した薬局には多目のお金(診療報酬)をあげますよとアメを目の前にぶら下げたので薬局は我も我もと患者さんにジェネリックを勧めだしたのです。でも彼らは、ジェネリックを勧める際、フェアな情報を患者さんに提供しているでしょうか?
もし、もらえる診療報酬が同じならジェネリックを勧めるでしょうか?我々医師は、誰もジェネリックが先発品と同じ薬だとは思っていません。別物の薬だと思って使っていますが、彼らはわかっているのでしょうか?ジェネリックは有効成分は同じですが、効果は強くなったり弱くなったりすることがあるということをちゃんと説明しているのでしょうか?
“効果は同じで値段は半分、勇気を出してジェネリックをお願いしますと言いましょう。”なんてどこかのコマーシャルのように説明していないか私は心配です。

第35回 「クリニック5周年」

新しい年が始まり、日本の景気も少し薄日が差してきたこの頃ですが、私どものクリニックも産声を上げてはや5年が経ちました
朝早くから急変した患者さんを嫌な顔せず受け入れてくれた労災病院のY先生、癌が発見され落ち込んだ患者さんを励ましてくれたM先生、いつも的確な治療をしてくれるN先生をはじめ、入院治療が必要な患者さんのケアをしてくれる労災病院のスタッフの皆さん、クリニックの最前線で患者さんと応対してくれる医療事務担当のUさん、Tさん、いつもニコニコ顔で患者さんのケアをしてくれる看護師のUさん、Kさん、そしてなにより私を信用して?通院してくださる患者の皆さんに支えられて、何とかここまでやってくることが出来ました。心からお礼申し上げます。

最近特に思うのは、自分ひとりがハッスルしても診療というものはうまくいかず、スタッフや患者さん一人一人が自分のなすべきことをしっかりとこなすと、ジグソーパズルがぴたっとはまるようにうまく病気がよくなるように思います。例えば、怪我をした患者さんが、傷の治療に来られたとします。
私が一生懸命、消毒、ガーゼ交換をしても患者さんが通院をサボってしまっては何時までたっても傷はよくなりません。患者さん自身が良くなろう、傷を早く治そうと思って通院してくれないと良くなりかけた傷がまた悪化してしまいます。
看護士さんはその患者さんが通院する気持ちを起こさせるようにサポートせねばなりませんし(不思議なことに患者さんは、医師の言うことより看護師さんの言うことをよく聴くようです。)受付は、患者さんが気持ちよく通院できるようにお手伝いをせねばなりません。
そして皆の仕事がうまく廻ると傷も良くなっていくということです。

こんな当たり前のことに気がつくまで5年かかりました。
正しい診断と正しい治療を提供するのは当たり前のことですが、プラスアルファ気持ちよく治療を受けてもらう、満足して家に帰ってもらう、そしてあそこに行けば何とかしてもらえるというクリニックを目標に次の5年、10年を過ごしていきたいと思います
ある名店の店主が、“サービスとは、お客様の希望をかなえることだ。
お客様のご希望は何なりとお聞きします。”とインタビューで話されているのをある記事で読んだことがありますが、我々の医療は、同じサービス業とはいえ少し違うと思います。
患者さんに良くなってもらいたいと思えば、本人には耳の痛いこともあえて言わねばなりませんし、辛い検査も受けていただかなくてはなりません。耳触りの良いことばかり言っていられないのです。ただ、私は、一方的に検査をしたり、生活指導をするのではいけないと思います。なぜ検査が必要なのか、検査の結果何をしなくてはならないのかをしっかりと理解していただくのが私の仕事ですし、それが出来なければ、私たちの存在意味がないとも思います。私どもも、一生懸命やりますし、患者さんも一生懸命努力していただく。この50-50の関係が良い医療を作っていくと信じて止みません。

第34回 「求む 治験参加者」

木枯らしが吹き、ジャケットを着ないと寒く感じる日が多くなってきました。このような気候が始まると、過活動膀胱と言う病気が多くなってきます。このコラムでも何回か取り上げましたが、急な尿意がでる、おしっこがトイレまで間に合わない、おしっこの回数が増える、夜寝てからも何回もおしっこのため起きる、などの症状がでます。このような場合、抗コリン剤と言う飲み薬が、非常に効果があり、ほとんどの場合、この薬で改善します。

しかしながら、便秘になる、のどが渇く、おしっこが出にくくなる、胃腸の調子が悪くなる、などの副作用があり、また緑内障など眼圧が上昇する病気の方は内服することができないなど欠点が色々あります。この病気は、高齢者の方に多いのですが、高齢者の方は、元来唾液の分泌が少なく、少量の抗コリン剤を内服しただけであっという間にのどが渇く、朝起きると口の中がねばねばする、ということで薬が内服できなくなります。便秘をはじめとする胃腸の副作用も困ったもので、ご飯が食べられなくなったと言われる方もちょこちょこおられます。

このように、非常によい薬なのですが、様々な副作用で内服できず、尿の漏れに甘んじておられる方も多くおられます。製薬会社も、約840万人といわれるこの病気に対し新薬の開発に取り組んでおり、色々副作用を軽減させる工夫をした薬が出てきていますが、なかなか思うように副作用をなくすことが出来ません。

私どものクリニックでは、今この過活動膀胱にたいして効果がある新しい薬の開発に協力しています。

現在取り組んでいる新薬は、これまでの抗コリン剤とはまったく違った攻め口の新薬で効果がありそうなところまできています。ただ、薬として認められるのには、同じような症状を持った方にプラセボと言う、薬とそっくりではあるが中には有効成分が入っていないものと飲み比べて、有効な薬を飲んだときだけ効果があるということを証明しなければなりません。これが、簡単なようで難しく、このような症状を持っておられて、かつ他の邪魔になる薬を飲んでいない方を探して試験に参加してもらえるようにお願いするのはそう簡単なことではないのです。

薬の実験台になるのですか?と眉をひそめる方も少なくありませんが、我々が行うような段階に達した治験は、すでに毒性や副作用にたいする検討はほとんど済んでおり、また服薬中も注意深く、心電図、血液や尿の検査を行いモニターするので問題となる副作用が出てくることはまず無いと言って過言ではありません。今までクリニックで治験に参加された方にまた、次同様な治験があったら参加してもらえますか?と治験終了時にアンケートすると“いいですよ”と答えていただける場合がほとんどです。ただ、自宅での排尿回数や尿量の測定などを数日間してもらう必要があるので、同じ病気で困っている方のためにというボランティア精神がないとなかなか参加してもらうことが出来ません。

治験の仕事をしていて、ひとつ思い出深いある被験者の方の言葉があります。“この病気は今まで自分にとって不愉快でした。でもこんな病気でも人の役に立つことがあるのですね。”
過活動膀胱の薬だけではなく、抗癌剤、抗生剤、降圧剤、糖尿病薬など我々人類にはまだまだ必要なお薬がたくさんあります。安全で効果があり、副作用の少ないお薬を世に出すためには、皆さんの協力が必要なのです。

第33回 「マスコミと新型インフルエンザ」

夏休みもいつの間にか終わり、秋祭りの練習をする笛や太鼓の音が日増しに熱を帯びてきています。

もうすぐだ、もうすぐだと言われていた総選挙がようやく終わり、予想されていたように民主党の地すべり的勝利、自民党の惨敗で終わり、政権交代となりました。今回の政権交代は、ある意味やむを得ず、官僚、自民党、民主党に緊張関係が生まれると思いますので、私自身は歓迎しています。しかし、ここまでに至る国民を誘導するようなマスコミの意図的とも思えるような報道のあり方は、4年前の小泉元首相の郵政選挙の真逆を見るようで、視聴率を取るためなら何でもやるのか、という感がします。選挙が終われば、鳩山首相や各大臣の学生時代の人となりをワイドショーだけでなくゴールデンタイムのニュースでも流し、まるで勝てば官軍といった風潮です。私たちは、学生時代の大臣を知りたいのではなく、今大臣が何を考えて、どんな日本を作ろうとして何をしているのかを知りたいのです。私たち、一般市民は、新聞やテレビでしか中央で行われていることを知り得ないのですから、必要なこと、我々が知らなければならないことに時間を割き、もう少し品のある報道をしてもらいたいものです。

同じことが、新型インフルエンザの報道にも言えます。最近、新型インフルエンザに関するニュースが増えてきて、日常診療でも質問も増えてきています。さすがに昨年末の致死率数10パーセントだとかスペイン風邪の再来で少なくとも数10万人が死亡するなどという根拠のない情報は、影を潜めましたが、未だにマスコミの恐怖をあおるような報道は、後を絶ちません。新型インフルエンザワクチンにしても国産が1800万本、足らない分は輸入で間に合わすそうですが、10月には接種が必要ということなのに、優先順位が決まっているだけで、どこで、だれが、どのように接種を行うのかということが我々には連絡されてきません。幸いなことに、今度の新型インフルエンザは弱毒で、罹ってもタミフルあるいはリレンザでほとんどの場合治癒しますが、ごくわずかではありますが、タミフル耐性の新型インフルエンザが出現していること、肺、心、腎疾患など余病のある方は、重症化し入院、集中治療が必要になる場合があることなどから早急な接種計画を公開し、準備を始めなければなりません。

それにも増して、重要なのは、季節性インフルエンザの対策がお座なりにされていることです。インフルエンザワクチン製造に必要な有精卵が新型ワクチン製造にとられ今年は季節性インフルエンザワクチンの供給が十分ではありません。私のクリニックでも昨年の80%しか納品できないとのことで希望者すべての方に接種できるかわからないところです。昨年流行ったタミフル耐性A型インフルエンザが今年も流行るとそれだけで重症化する患者さんが出るのではないかまた、タミフル耐性遺伝子を新型インフルエンザが獲得してしまうのではないかと私自身は心配しています。報道機関もノリピーがどうだか、首相夫人がUFOに乗って金星に行ったことがあるとかどうでもよいことにうつつを抜かさず、自民党政権時代の政府の対応の遅れが今頃我々の上に降りかかってきているということをしっかり取材してどんなことが必要か、われわれがしなければならないことは何かということをしっかり報道すべきではないでしょうか。

我々にできることは、マスクの着用、手洗い、咳エチケットを守るということだけではないはずです。

第32回 「熱中症について」

ずいぶん更新が途切れていました。サボっていたわけではなく、純粋に忙しかったのでお許しください。前回は、春になって暖かくなりました、などと書いていましたが、いつの間にか7月になり、蒸し暑い日が続くようになりました。この時期多くなるのが、熱中症です。
熱中症とは、症状により

  1. 体の体温が上昇し、そのため血管が開いて血液の循環がうまくできなくなり脳への血液が足らなくなって気分が悪くなったり、めまいや失神が起きる熱失神
  2. 大量の汗をかきこの水分が補充できないと脱水状態になりますがこれによって起きる倦怠感などの症状を示す熱疲労
  3. 脱水状態のときに水分だけ補充すると血液の塩分が薄くなりけいれんなどが起きる熱けいれん
  4. そして一番怖いのが、体温の上昇のため脳がダメージを受け、頭痛、めまい、吐き気などの後に意識がなくなる熱射病 があります。

昔は、真夏の日中や高温多湿の職場での、スポーツや肉体労働をした場合によく報告されていましたが、職場での熱中症は、職場環境の改善とともに減少し、最近は、クラブ活動の学生さんや閉め切った部屋の中でお年寄りが熱中症にかかっているのがよく報告されています。

予防は、とにかく水分補給を心がけること、スポーツなどで汗をよくかく方は塩分の補充もあわせて行うこと、適度に休憩を取り体温の上昇を避けることです。ゴルフ、テニスなどスポーツをされる方は、前日からの体調管理が重要で、夜更かしやアルコール多飲のままで運動するとリスクはぐっと上がってきます。

室内で窓を開けずに風通しを悪くした中で生活すると熱中症になりやすいので窓を閉める場合は、エアコンをかけることが重要です。私は、クーラーが嫌いだから、と言う方は、窓、玄関を開け、風通しを良くしてください。プラス扇風機などで部屋に熱がこもらないようにするといいと思います。特にお年寄りは、のどの渇きにたいするセンサーが弱く、頻尿があるので意図的に水分を避けておられる方もおられ、脱水になっていても気づかないことがあり、周りの人が積極的に水分摂取を勧めてあげた方がよいと思われます。

熱中症になっている方を発見したら、

  1. 日陰など風通しのよいところで衣服をゆるめ下肢を上げる。
  2. 霧吹きなどで水をかけて体を冷やす、団扇などで風を送る。
  3. スポーツドリンクなどを飲ませる。

勿論意識障害などあれば、直ちに救急車を呼んでください。

第31回 「夜間多尿について」

桜の花も散り、日も長くなってきました。暖かい日も日に日に増えて、患者さんの中にも、暖かくなっておしっこの調子もよくなってきましたと言われる方が増えてきています。

さて今回は、前回からの続きで夜間頻尿の原因と題して、第2の原因である夜間多尿について考えてみましょう。
膀胱がいくら正常で1回あたり200-300ml溜めることができても夜作るおしっこの量が増えてしまっては夜間に排尿のため起きてトイレに行く回数は減りません。これも夜間頻尿という症状になってしまいます。ただ、前回と違うところは、トイレに行くとしっかりとした量が出てくるというところです。
このような方に排尿日誌をつけていただくと200ml以上の排尿量が2-3時間おきに何回も記録されていることがわかります。膀胱は正常で溜める力は問題なく、溜まるからおしっこに行きたくなって目が覚めるという当たり前のことが起こっているわけです。
ではなぜ夜間におしっこが増えるのでしょう。
正常な場合、夜はおしっこに行かなくて済むように頭にある脳下垂体という場所から抗利尿ホルモンというおしっこを作らせないホルモンが多く分泌されます。このホルモンが出ると腎臓はおしっこを濃縮させて尿量を減らそうとします。
ところが、歳をとるとこのホルモンの分泌が悪くなって夜にホルモンの量が減ってきます。すると腎臓は、おしっこを濃縮することを止めて薄い尿がたくさん出てくるということになります。

また、お年をとると血圧が高くなります。通常、カテコラミンというホルモンが血圧を高くする働きを持っていますが、血圧の高い方は日中このホルモンの分泌が高く、夜間低くなります。このホルモンは、血管を収縮させる働きがあり、日中、高いと腎臓の血管を収縮させ、おしっこを作ろうとする血液の流入が減っておしっこを作らなくなります。
ところが夜このホルモンが減ってくると腎臓の血管は開いてきますが、昼間作らなかった分だけ体に水分が残っているためますますその水分をおしっこにしようとして尿量が増えます。このように血圧をしっかりコントロールするということも夜間の多尿を防ぐ方法になります。
糖尿病も夜間多尿の原因になります。

これは、多飲多尿といいますが、尿中に糖分が漏れ出てくると尿の浸透圧が上がります。体液より浸透圧が上がるとそれを薄めようとして体から水分が尿の方に引っ張られて出てくるわけです。
すると体は水分が少なくなりますから、のどが渇いて水(ジュース)を飲む、飲むとおしっこが作られて糖分が尿中に漏れてくる、という悪循環に陥り、多尿になるといわれています。
これは糖尿病を治療することでよくなります。
また、患者さんの中には夜に水を飲まないと脳梗塞になると思い込んでる方もおられます。誰が言い始めたのか知りませんが、夜に水を飲まないと脳梗塞になりやすいなどということはありません。人間は夜眠るように作られているわけで夜にがぶがぶ水を飲まないと脳梗塞になるなどということはないのです。朝一番から夜寝る1-2時間前までにまんべんなく水分摂取ができていれば問題ありません。お風呂に入って汗をかいたなら1杯くらいの水分は必要かもしれませんが、それすら飲まないでも血液がどろどろになるなんてことはないのです。いつも患者さんには、もしそんなことで脳梗塞になるのなら、真夏に外を歩いたら一発で脳梗塞になりますよ、そんなことより血圧のコントロールをした方がよほど脳梗塞の予防には役に立ちます、説明しています。
夜間多尿に対する治療はなかなか難しいですが、夕方軽い運動をする、水分摂取を計画的に行う、軽い利尿剤を夕方に内服するなどその患者さんにあった方法を一緒に考えて治療していきます。