コラム(第21回-第30回)

第30回 「夜間頻尿について」

3月に入り、もうすぐ春だなと思わせる陽気の日もある一方、お水取りの時期になりやっぱり冷え込むなあと思う日もあり三寒四温といったところでしょうか。
今回は、夜間頻尿についてお話したいと思います。今度、あるフォーラムで泌尿器科から見た夜間頻尿と睡眠というお題を頂いて講演することとなりました。
普段は、夜は何回トイレに行きますか?辛くないですか?などと問診していますが、実は、夜間の頻尿という症状は、たくさんの原因があります。

泌尿器科的に考えた場合、夜間の排尿回数が多いのは、1)頻尿と2)多尿の2タイプに分かれます。
つまり、1)たびたび尿意がありトイレに行かねばならないが、行ってもそんなに尿が出ない(尿が膀胱に溜まっていない)という純粋な意味での頻尿、2)夜になるとどんどんおしっこが腎臓で作られるためすぐに膀胱がいっぱいになり、尿意が出てトイレに行かなくてはいけなくなる多尿、どちらもトイレの回数が多いという現象は同じですが、原因も治療も異なってきます。1)頻尿の代表選手は、このコラムでも何回か出てきた前立腺肥大症、過活動膀胱という病気です。前立腺あるいは膀胱が原因で尿が膀胱にしっかり溜まらずトイレにいってしまうという状態で、アルファブロッカーという薬や抗コリン剤という薬がよく効きます。

また、意外に多いのが不眠という状態で、患者さんの話をお聞きしていても尿意を感じて目が覚めるのか、目が覚めるからトイレに行くのか曖昧になっている方は、不眠が原因と考えてよいでしょう。この場合は、睡眠導入薬が効果を発揮します。ところが、患者の皆さんは、安定剤なんて!癖になったら怖い!などと言われ内服するのを嫌がられます。最近は、不眠が万病の原因になっていることが明らかになっており、高血圧や糖尿病の方で血圧が安定しない、血糖やヘモグロビンA1cが安定しないという方に睡眠導入薬を内服していただくだけで血圧も血糖も安定した、などというデータも出てきて不眠がいかに体にたいして悪影響があるか明らかになってきています。私どものクリニックでも夜間頻尿を訴える患者さんに睡眠導入剤を内服してもらうと平均3.4回の夜間排尿回数が2.1回に減少したというデータが出ており、効果があることは明らかでした。

なぜそうなるかは明らかではありませんが、人間歳をとると、年々眠りが浅くなり、中途覚醒といって夜間に何度も起きるようになります。寝室でテレビをつけっぱなしで休まれるという環境やアルコールで眠ろうとすることなどは眠りを浅くする原因になります。それに対して、夕方の30分以上の散歩や短時間の昼寝などは入眠をスムーズにし中途覚醒の回数を減らす効果があるようです。

それでも眠りが浅い方は、睡眠導入剤を内服されることをお勧めします。最近の睡眠導入剤は、翌朝への持ち越し(朝ボーっとする)もなく、筋肉への影響 (夜ふらふらしながらトイレに行く) も少なく、また癖になる(習慣性が出る)事もありません。夜間何回も目覚め、朝ボーとする症状がある方は、そちらの方が体に与える影響が問題で睡眠の改善が健康を維持するのに有効だと考えられます。しかし、一方睡眠時間が短くて......、というだけで睡眠導入剤を内服される必要もありません。睡眠の質は、睡眠の深さと睡眠時間で決まります。短時間でも眠りの質がよく、朝起きたとき熟眠感があれば、それで睡眠は足りているのです。かのナポレオンも睡眠時間は3時間だったといいます。よほど質の良い眠りだったのでしょう。
よく眠ること、これは夜間のおしっこの回数も減らし、健康の源にもなるでしょう。
次回は、2)多尿についてお話しまします。

第29回 「過活動膀胱」

新年明けましておめでとうございます。
最近、めっきり寒くなってきました。寒くなるにつれ、頻尿、切迫感、切迫性尿失禁などを訴えて来院される方が増えてきました。このコラムでも以前取り上げたことがある過活動膀胱です。

この病気は、膀胱の排尿筋が自分の意思とは関係なく収縮することで膀胱の内圧が急に高くなり、耐え難い強い尿意が出現するという状態で、脳梗塞や脊髄の病気など原因が明らかなこともありますが、原因不明のことも多く、寒くなるとこの症状を訴える方が増える傾向にあります。病気の仕組みを考えていくと神経伝達物質や神経回路の再構築など学問的には興味深い点が色々あり、個人的には面白い(患者さんには失礼ですが)病気だなと思っています。

治療は、ガイドラインにも書かれてあるように抗コリン剤といわれるお薬を内服していただきます。2週間で約6割、4週間で約8割の方に効果があり、診断が正しい限り、まずよくなります。お薬をずっと続けなければ症状が再発する方もおられますが、明らかな病因がない方の場合、私は約3ヶ月の投薬の後、徐々に減薬していきます。この方法でまず8割以上の方が薬から卒業できます。勿論、翌年寒くなってまた症状が出る方もおられますので、自分では花粉症みたいなものかなと考えています。ただ、あるタイプの緑内障のある方はこの薬が飲めませんので注意が必要で、患者さんが緑内障といわれたことがありますという方は、まず眼科で診察していただき処方可能かどうか確かめる必要がありますし、口渇、便秘といった副作用が出やすいのでこれらのことにも気をつけながら症状を見る必要があります。また、消化管の動きを抑える副作用もありますので、胃部不快感や食後の胃もたれなどを訴える方も時々おられます。口渇以外は対処する薬がありますので併用しながら薬を続けてもらいますが、口渇のため薬を中断しなければならない方が少なくありません。現在、これらの副作用を低減する、あるいはなくす薬の開発が進んでおり、将来胃薬などのように気楽に飲める薬が出てくるかもしれません。

最近、テレビを見ていると色々なメーカーが気軽に飲めるとかお困りの方はまず試してくださいとかいう頻尿や尿失禁の薬のコマーシャルをよく見かけます。これを見て思うことは、コマーシャルになるくらいなのでやはり困っている方は多いのだなということと、薬メーカーの商魂たくましさという少し嫌なものです。我々は、これらの薬の中身はよく知っていますが、泌尿器科医として第一選択としてお勧めするものではありませんし、どうも2週間くらいを目安にということになっているらしいですが、それで約8000円-1万円かかるようになっています。この過活動膀胱という病気は、偽薬を内服しても60%の人はよくなったと感じる病気ですから、薬の効果がなくても良くなったように感じてしまうわけで、しかし本当に過活動膀胱ならすぐ悪くなりますからかなりのお金を使わねばならなくなり、泌尿器科にかかった方がよほど安価に正確な治療ができるということになります。こういう会社は、困った人の弱みにつけこんだ商売をしていると穿った考えをしてしまうのは、私だけでしょうか?

今現在、過活動膀胱で困っている方は、約840万人といわれ、今後高齢化社会が進んでいくとますますその数は増えるといわれています。命にかかわる病気ではありませんが、買い物に行くのもためらわれる、旅行に行きたいがバスはトイレがないのでと言う方がおられるのであれば、生活の質を高めるためにもきちんとした診断、治療を受けられるのがよいのではないでしょうか。

第28回 「風邪とインフルエンザ(流感)」

約3ヶ月ぶりの更新です。多忙にかまけてずいぶんサボっていました。
暑い8月にジェネリックの話を書いた後、あっという間に秋になり、朝夕がずいぶん冷え込むようになりました。この冷え込みで、皆さんの中にも風邪を引かれた方がいらっしゃるのではないでしょうか?
私も必ず、この季節の変わり目、秋と春の年2回必ず風邪を引きます。
決まったように引くので家族は季節の変わり目がよくわかると笑います。

さて風邪はどうして引くのでしょうか?風邪は、医学的にはかぜ症候群といい、鼻水や咽頭痛、咳など上気道の症状が代表的ですが、下痢、腹痛、嘔吐など消化管の症状を呈することもあり、腹かぜとも言われることもあります。要は、どんな病原体が感染するかで症状が異なるということです。
実は、風邪の原因と考えられるウィルスはなんと200種類以上もあるといわれています。
一般的な風邪といわれる症状の原因で多いのは、ライノウィルスというもので上気道に感染し、咳、鼻水、咽頭痛などの症状を引き起こしますが、同じウィルスであるエンテロウィルスやノロウィルスは消化管に感染し腹痛、下痢、嘔吐を引き起こします。 昨年、猛威を振るったノロウィルスは記憶に新しいことでしょう。これらウィルスが感染した場合、薬局で風邪薬を買う、診療所に行って風邪薬を処方されると思いますが、風邪薬で風邪が治ると誤解されている方が多いようです。
特殊な風邪を除いて風邪薬で風邪が治ることはありません。
治すのは患者さん自身の免疫力であって、風邪薬は、症状の緩和をするだけです。

鼻水が出て困る方は、鼻水を止める、のどが痛い方は痛みを和らげる、お腹が痛い方は痛みを和らげるという薬です。後は、体が感染したウィルスを認識して免疫と呼ばれる体を守る仕組みを使ってウィルスをやっつけてくれるのを待つだけです。

私は、風邪薬を希望される患者さん(私どもは、泌尿器科ですので風邪で来られる方は、めったにおられませんが)には、“風邪は自分で治すしか方法はありません。うがいをして2次感染を防ぎ、しっかり水分を取って、とにかく寝ていてください。症状が辛ければ症状を緩和する薬を出しますが、特殊な風邪でない限り抗生剤は効きませんので出しません。”と必ず説明しています。
抗生剤を処方するかどうかは、異論があると思います。ウィルスでただれた上気道や消化管に細菌の2次感染が起こるので予防的に投与するというお医者さんもおられると思いますが、最近では、抗生剤投与により症状が緩和されたり、治癒までの期間が短くなったということは無い、というデータが報告されており、私はこれを信じています。

これに対し、インフルエンザは風邪とは別物です。 インフルエンザウィルスの感染によって引き起こされ、A型とB型があります。ご存知のように、症状は強烈で、鼻水、咳、咽頭痛は勿論、発熱、全身倦怠感が強く、場合により死亡することもあります。1918-1919年に発生したスペイン風邪もA型インフルエンザが原因で、世界中で数千万人の方が亡くなられたとされています。
予防方法は、マスク、手洗い、うがいとされていますが、現在のように発達した社会の中で、人との接触を避けるのは物理的に無理で、私自身は予防接種しか方法はないと考えています。
治療方法は、早く感染がわかればタミフルやリレンザの投与で軽いうちに回復することができると思われますが、タイムリミットは症状が出て48時間以内です。現在は、30分以内に感染の有無を知ることができる検査キットがありますので、症状が出れば我慢せず、早く医療機関にかかることが重要だと思います。

しかしながら、かかってからの治療よりかかる前の予防接種のほうがよほど意味があると私は考えています。予防接種は、健康保険が使えませんが、健康保険を使って予防接種を行った方が、あとで治療するよりよほど安価で済み、患者さんの命を救うという医学的観点からも、仕事や学校を休む必要がなくなるという社会経済上の観点からもメリットが多いと思いますが、高齢者や一部の体の弱い方に対する補助はあるとはいえ、保険を使えるようになぜ厚生労働省は動かないのでしょうか?

第27回 「ジェネリック薬品について」

2回続けて、医療崩壊について書いてきました。書き出した頃は、“えらいこっちゃ”という新聞読者の危機感をあおるニュースが溢れていましたが、最近は、少し冷静になってきたように思います。医療崩壊については、まだまだ色々な問題があり、書き出すと止まりませんが、最近マスコミも“みんなで協力してこの危機を乗り切りましょう”という論調に変わってきましたし、政府もようやくこのままではいけないと考え出したのか、予算を含め色々と対策を講じ出しました。まだまだ絵に描いたもちという面はありますが、少しでも私たちが住みやすい、安心して暮らせる医療体制になって欲しいものです。

さて今回は、最近患者さんからジェネリック薬品はどうですか?とよく聞かれます。今回は、ジェネリック薬品について私なりの考えを述べたいと思います。コマーシャルで効き目は同じで値段は半分という宣伝を目にされたり、耳にされたりしたことがあると思います。ジェネリック薬品とは、何でしょう。新しく開発された薬(先発品)がある期間(特許期間)を過ぎると他のメーカーもその薬と同じものを作れるようになります。これを後発品、ジェネリックといい、開発費や宣伝費などがかかっていない分、安く作ることができ、安く売ることができるとされています。そのため、極端な場合薬代が半分という宣伝になるのです。

しかし、ここにはうそがあります。まず、すべての薬が半分の値段になるわけではないということです。我々が普段患者さんによく服用してもらう薬(先発品)の特許が切れたばかりの頃は、薬価(薬の値段)は約3割しか安くなりません。また、逆に長く使われている薬はどんどん値段が下がってきて、(国は、2年に1回薬の値段を改定しますが、2年ごとに少しずつ安くなります。) 先発品とジェネリックの値段の差はほとんどなくなります。つまりジェネリック薬品を選んだからといって必ず期待するほど値段が安くなるわけではないということです。

しかし、大事なことは別にあります。ジェネリック薬品は、効き目が同じというわけではありません。有効成分が同じというだけのことです。例えば最近、前立腺肥大の代表薬の特許が切れ、ジェネリック製品がたくさん市場に出てきました。ある医師がそれらの薬の溶出試験(薬が体に入ったときにどのくらいの速さで溶け出すかという試験)を行ったところ先発品と同じものはひとつとしてなかったというのです。国に試験結果として出すときには先発品と同じですという結果を出すのですが、その後はチェックをしていないということだと思います。ちなみに先発品は、いつでも同じパターンを示したそうです。同じような話は、内科の先生からもよく聞きます。ジェネリックにすると血圧の下がり方が悪くなった。期待したほどコレステロール値が下がらない。恐らく、溶出試験の結果のようなことが起こっているのだろうと思います。

勿論このようなことばかりではないと思います。信頼できる効果の高いジェネリック薬品は多いと思います。問題なのは、皆さんはジェネリックというだけでどのメーカーのジェネリックかわからないということです。信頼できるジェネリックメーカーもあるでしょう、しかし、中には聞いたことのないメーカーもあり本当にちゃんと作れているのかわからない例もあると聞きます。勿論このようなことばかりではないと思います。信頼できる効果の高いジェネリック薬品は多いと思います。問題なのは、皆さんはジェネリックというだけでどのメーカーのジェネリックかわからないということです。信頼できるジェネリックメーカーもあるでしょう、しかし、中には聞いたことのないメーカーもあり本当にちゃんと作れているのかわからない例もあると聞きます。

キャベツに長野産、北海道産、大阪産と表示があるようにジェネリックを勧めるならどこのお薬かを明示してもらいたいものです。そして、先発品の値段が高いというなら、現在は政府が薬の値段を決めていますが、メーカー側にもジェネリック製品と同じ値段をつける権利も与えるべきではないでしょうか?先発品がジェネリックと同じ値段、あるいは近い値段ならお金だけでジェネリックにする必要はなくなります。それより、ジェネリックならではの独自で飲みやすい剤型や味、使いやすさで勝負してもらいたいものです。

効き目は同じ値段は半分ではなく、効き目は同じ飲みやすさは2倍の方が我々にはありがたいと思います。

第26回 「医療崩壊について2」

最近救急車が、受け入れてくれる病院を探せないという事態が深刻になってきています。新聞は産婦人科や小児科の問題だけクローズアップしますが、実際は内科、外科をはじめリスクを伴う科の志望が減ってきているのです。受け入れ病院が救急車を断るのは、医師が入院患者さんの処置や他の患者さんの診察に追われているということが大きいでしょうが、実際はもう少し根が深いところにあります。
最近の医療裁判の判決で、救急病院における医療レベルが高いものを要求されるようになりました。例えば、泌尿器科医である私がある病院で当直しているとしましょう。そこに救急隊からどの病院も受け入れてくれない心筋梗塞を疑う患者さんの受け入れを頼まれた場合、私は受け入れを断るかもしれません。なぜか?もし、引き受けると、本当に心筋梗塞だった場合、次の受け入れ病院が決まるまで私が責任を持って患者さんの治療をしなければなりません。私は泌尿器科医ですから、一般的な処置はできますが専門的な心筋梗塞の治療はできません。不幸にも次の搬送先が見つかる前に患者さんが亡くなられた場合、私は患者さんのご家族から適切な治療を受けることができなかったということで訴えられるかもしれません。最近の判例では、この様な場合、医療側が負けることが多くなってきました。もっとひどければ、警察に業務上過失死傷ということで逮捕されるかもしれません。善意から精一杯行った医療行為に対し、現在の仕組みや風潮は厳しいものなのです。

私は、皆さんに医療とは決して安全確実なものではなく(我々は、できるだけ安全に行おうとしていますが)、常にリスクと隣りあわせなのだということを理解していただきたいと思います。たとえ採血という医療行為でも、胃がんの手術でもリスクの程度は違いますが、体に侵襲を与えているということでは同じなのです。

その一番良い例がお産です。芸能人の出産などがテレビで取り上げられ、また週刊誌などマスコミが、どこそこの病院では、産後にフランス料理が出るとかブランド物に囲まれた病室をもてはやし、出産を結婚式と同じようなイベントに仕立てあげました。昔の出産は、お母さんの命をかけた生と死の瀬戸際で行われる行為で、不幸にもお母さんが亡くなられたり、赤ちゃんが死産であったりしたことも少なくなかったはずです。ところが産婦人科の先生の努力や医療技術の進歩で周産期死亡率(お産前後の死亡率)が良くなり、(事実日本の周産期死亡率の低さは世界一だそうです。) 赤ちゃんは元気で生まれるのが当たり前という概念が広がったため、元気で生まれなければ、産科の先生が訴えられ、お母さんが亡くなられるというような事態にでもなれば、犯罪者として逮捕される時代になってしまいました。手術もお産もどんなに一生懸命しても、ある確率で不幸な結果が出ることは皆さん理解できると思います。ある確率でジャンボジェット機も必ず墜落しますし、皆さんが運転している車も必ず事故を起こすのです。一生懸命にやったにもかかわらず結果が悪ければ、患者さんに訴えられ、逮捕され裁判にかけられる、こんな仕事が世の中にあるでしょうか?

このような不条理にやっと気がついた政府は、医療者、弁護士、患者代表、からなる医療事故調査委員会なるものを作ろうとしていますが、その内容は、ミスをした医療者を罰するという意味合いが強く、そのミスがどうして起こったのか、何を改めなければならないのかという原因追求を目的にしたものではないといわれています。

人間はミスをする生き物でそのミスから学ぶことにより成長するはずです。ミスをすることだけを罰するようになれば、誰もミスを恐れて重症の患者さんの治療や手術を行わなくなるのではないでしょうか。私たちは、患者さんに元気になって欲しいという一念で医療行為を行います。そのために何日も泊り込むなんてことは厭いません。しかし全力で行った行為に対し正当に評価されねば、医療現場には元気が戻ってこないでしょう。

第25回 「医療崩壊について1」

今までは、病気の事、検査のことについてコラムを書いてきましたが、今回は現在新聞をはじめとするマスメディアを賑わしている医療崩壊について私なりの意見を述べたいと思います。今回のコラムを読んで、本当かなと思われる方も多いと思います。しかし、今医療の現場がどうなっているのかは、あまり皆さんご存知ないようです。厚生省や医師会はのんきなことを言っているし、マスコミは美談や視聴者受けするようなことしか載せません。本当のところどうなっているのか知って欲しいと思います。

今日も複数の患者さんから“最近救急車のたらいまわしが起こっていますが、私たちは大丈夫でしょうか?どうしてこんなことが起こるのですか?”と聞かれました。一つ目の質問には、決して新聞に出ていることは他人事ではなく、私のクリニックの患者さんだけでなく私自身にも起こりえることで、決してこの堺でも安心はできないとお答えしました。二つ目の質問には、皆さんは漠然と医師が少ないから、病院の先生は忙しいからと思っているでしょう。確かにその通りです、医師の絶対数は明らかに少ない、そのために連続 36 時間勤務とか労働基準法を無視した勤務状態がまかり通るのです。

私自身も勤務医時代には、 1 週間できちんと昼ごはんが取れるのは木曜日だけでした。運がよければ月曜日か金曜日 3 時頃、誰もいない食堂の隅で冷えた食事を取ることができました。当直明けは、そのまま手術や外来勤務を眠い目をこすりながらしていたのを思い出します。たぶん外科医は皆こんな経験をされていると思いますし、自分だけがつらい経験をしたとは思っていません。

ですが良く考えてください、こんなことでいいのでしょうか?患者さんにしてみれば、当直明けの能力が落ちた医師に手術をされたり、診察、検査をして欲しいと思うでしょうか?私自身は、このまま当直明けの勤務が続けば、必ず医療事故が起こると思いましたし、起こらねば私が病気をすると思いました。人の命を扱う仕事にもかかわらず勤務状況が保障されないということは、なんと危険なことかと思いませんか?同じように人の命を乗せて飛ぶ飛行機は、長距離便では機長が 2 人いて交代すると聞きます。同じように人の命を預かる病院でも医師の数、コメディカル ( 看護師さん、技師さん、薬剤師さんなど ) の数を増やし、病院での仕事を交代制で負担のないように行う仕組みを構築することが必要だと思います。政府は、国民医療費の伸びをできるだけ減らそうとしていますが、元首相の小泉さんのように財政再建、医療費削減を唱えイギリスの経済を立ち直らせたサッチャーさんは、“ゆりかごから墓場まで”といわれたイギリスの医療を崩壊させました。救急車は運ぶ病院がなく、手術をしようにもできる医師は居ず、癌の手術を受けるのに半年待ってその間に癌が転移して亡くなられたというような、今の日本の医療をもっとひどくしたような状態になりました。ここにいたって、大変であることに気づいた前首相のブレアさんが医療費の倍増を指示しましたが、時すでに遅し、一度つぶれたシステムは未だに再構築できず苦しんでいるのは有名な話です。

医療とはビジネスではなく社会保障であることを思い出して欲しいのです。病気になっても、病院にいけば何とかなる、ちゃんと治療が受けられるという安心があるから、人は一日元気で働けるのであり、生活できるのです。

お金儲けのために我々は働いているのではなく、消防士さんや警察官と同様、病院、クリニックと働く場所は違いますが、それぞれの場所で社会の安全、安心のために働きたいと考えています。医療費を削減し厳しい勤務状況での仕事を強いることは、医療に携わる者のモチベーションを下げ、ひいては現場から立ち去る医療者を増やすだけです。米軍にわけのわからない数千億円の思いやり予算をつけたり、何兆円もかけて車の走らない高速道路を作るより、本当に崩壊する前に安心できる医療体制を構築する方が大事ではないでしょうか。

第24回 「神経因性膀胱について」

さて、年末に性感染症に関するミーティングに参加してきました。そこは、性感染症に携わる婦人科や神経因性膀胱という名前は、とっつきにくい難しい名前だと思います。しかし病態は、読んで字のごとく神経が原因で膀胱の機能が悪くなった状態で、その結果起こった膀胱の状態には色々なものがあります。

脳梗塞、脳出血など脳の障害や事故などで脊髄に障害を受けた方、また直腸や子宮の手術など骨盤の手術を受けられた後の方がこの病気になられます。また、糖尿病や膠原病など内科的疾患が原因のこともあり、原因不明のことも多々あります。

病気には、相反する2つの状態があります。大きく分けると、膀胱壁が硬くなるため広がらなくなり、尿がたまらず頻尿になるパターン、また逆に膀胱がうまく収縮できなくなってどんどん広がり残尿(排尿しても残る尿)が増えて頻尿や腹部膨満を訴えるパターンです。いずれの場合もひどくなると、尿が漏れたり腎臓が腫れて腎機能が悪くなるというような事態となります。

診断は、比較的容易で超音波検査にて残尿の量を調べたり、造影剤を膀胱内に注入して膀胱の形を見たり(松ぼっくりの様な特長的な形をしています。) 造影剤を血管内に注射し腎臓から造影剤が排泄され膀胱まで流れてくる様をレントゲンで撮る(排泄性腎盂造影検査)をすれば大体わかります。膀胱内を見る膀胱鏡をすればなおよくわかります。

その人の神経因性膀胱の程度を診るには、膀胱内圧測定という検査をします。膀胱内にカテーテルを置き、そのカテーテルから水あるいは二酸化炭素のガスを注入して膀胱を膨らませていく過程で、膀胱内の圧力の変化を見る検査です。膀胱内圧を測定することで収縮力はどのくらいか、どのくらいの膀胱容量があるのか、自分の意思と関係なく膀胱が収縮しないのか、膀胱は硬くないのかなど得られる情報はたくさんあります。

このように診断がついた方は治療を受けます。膀胱の収縮力を強くする薬や出口を広げやすくする薬で対処する方法、間歇的自己導尿といって時間を決めてご自分で細いカテーテルを入れて導尿してもらう方法、またバルーンカテーテルという留置型のカテーテルをずっと留置し定期的に交換する方法など患者さんの病気の状態、家庭環境などにより様々な方法がとられます。

我々は、つい自分たちの考えを患者さんに押し付けてしまいがちですが、患者さんの家庭事情や能力は様々です。その方にとって一番良いと考えられる方法を一緒に探していかねばならないと考えています。

第23回 「エイズについて」

皆様、あけましておめでとうございます。年も明けて10日以上も経ちますのでご挨拶としては少し遅いのかもしれません。いつもコラムを読んでいただいてありがとうございます。今年も、泌尿器科に関するトピックな話題を提供していこうと思いますのでよろしくお願いいたします。

さて、年末に性感染症に関するミーティングに参加してきました。そこは、性感染症に携わる婦人科や泌尿器科の先生方が定期的に勉強する集まりなのですが、少し気になる話題がのぼっていました。日本では、エイズが増え続けていることです。

皆さんは“エイズ”はご存知だろうと思います。日本ではまだまだ少なくて自分がかかることなど無いと思っている方も多いでしょう。また、エイズにかかると癌にかかるより怖く、命を落としてしまうと思っている方も多いかもしれません。エイズはHIVというウィルスが人から人に感染して(主に性交渉で移りますが、昨今血液製剤から感染した方が問題となっています)発症する病気です。簡単に言うとまず、HIVウィルスが人のリンパ球に感染します。HIVの初感染時は、感冒様症状が出現するだけです。それが治まると数年の時を経て、リンパ球内で徐々にウィルスが増殖しリンパ球はその機能を失い免疫不全という状態が起ります。ここに至ってはじめてエイズという病名がつきます。特別な症状ではなく、なんとなく疲れやすかったり、微熱が出たり、皮膚炎を起こしたりといった症状で病院を訪れることが多いようです。その後進行すると中枢神経が侵され神経症状や痴呆などの症状が出たり、肺炎を起こしたり、癌ができやすくなったりなどします。

欧米などでは1990年代に増加していましたが、2000年以降病気に対する理解が進み、徐々に発生率も少なくなってきています。私も日本でもそのような傾向が出ていると考えていたのですが、そのミーティングの講演者は、中国、インド、インドネシアと同様日本でも増加の一途であるといわれていました。ところが、増加の傾向を見てみると行政と教育、医師会などがタッグを組んで若年者の性教育や病気の知識の啓蒙を積極的に行っている地域では発生率が少ないとの結果が出ていました。性に対する正しい教育を若年者に行い、知らない間にHIVに感染し、知らない間に他人に移してしまうという状態が回避できれば、日本でも徐々に収束していくのではないかと思っています。

また、治療に関しても著しい進歩がありエイズを発症するとなすすべがなかった昔に較べ、現在は次々と新薬が開発され、HIVの感染がわかってからでも何十年も普通の暮らしができるようになってきたそうです。適切は治療を受ければもはやエイズは不治の病ではないと演者は言われていました。

ミーティングでの結論は、モラルのある行動は絶対必要なことであるが、感染のリスクのある方は、悩まずにHIVの感染の有無を知る検査(血液検査)を受けてもらおう、ということでした。そのために我々は、院内に啓蒙のポスターを貼ったり、患者さんからの質問に対してしっかりとした知識を持ってお答えしていこうとしています。

第22回 「前立腺癌検査について」

先ごろ厚生労働省の前立腺癌検診にかかわる研究で、検診は勧められないとの見解が出ました。大きな理由は、検診で早期に発見しても生命予後に影響を与えない、つまり検診で早く発見してもそのために長生きするというデータがないというものでした。また、PSAが高い方の場合、2次検診として前立腺生検という組織を採る侵襲のある検査が必要ですが、少なからず陰性と出る方がおられ、無駄な検査を受ける不利益があるというものでした。

一方、我々泌尿器科医が属する泌尿器科学会は、PSA検診が有効かどうか現在実施中の研究もあり、結論を出すのは時期尚早であるとの立場をとっています。日々の診療でも患者さんにどっちが正しいのですか、と問われることが多くなりました。

問題は、前立腺癌という病気が他の癌と少し様相を異にしているからだ、と私は思っています。特別な場合を除いて前立腺癌は高齢者に発生し、そしてゆっくりと進行していく癌です。また、ホルモン療法という男性ホルモンを遮断する治療がほとんどの前立腺癌に有効であり、これは転移を有するか否かに関係しません。つまり、お年寄りに癌が発生してかなり進んだ状態で発見されても、ホルモン療法を行うとかなりの確率で癌をコントロールでき、寿命を全うできるということです。それが故に、癌を早く発見した場合と進んだ状態で発見した場合で病気の予後に差がつきにくいのだと思います。故に検診で早く発見する必要はない、というのが厚生労働省の言い分のように思われます。(はっきりとは言いませんが。)

でも本当にそうでしょうか?人間誰しも、病気があれば早く見つけて治したいものです。特に数は少ないとはいえ40歳代から前立腺癌は存在します。このような社会的にアクティブに活躍してもらわなければならない年齢の方々に進んだ癌が発生した場合やはり社会的に大きな損失ではないでしょうか?根治できる大きさの癌で治療した方が、明らかに治療成績が良いというのが我々現場の泌尿器科医の感覚です。どんな病気でも早期発見、早期治療が良いに決まっています。生活の質も上がるでしょう。厚生労働省は、癌によって命を落とすという生命予後だけを指標にし、生活の質というものを考慮していないように私には思われました。

現在、私が開業している堺市にはPSA検診がありません。他の市町村と比較出来る前立腺癌による死亡率や罹患率のデータはありませんが、それでもかなり進んだ状態で発見される前立腺癌は毎年少なからずおられます。以前のコラムで書きましたように、早期に前立腺癌を見つければ、色々な治療法をわれわれ泌尿器科医は提示できます。そのための検診は、なくすべきではなく、むしろ広げていくべきではないでしょうか?

第21回 「尿失禁について2」

今回は、前回に続いて尿失禁の話です。前回お話したように、失禁のタイプには大きく分けて2種類あり、前回の腹圧性尿失禁と今回お話しする切迫性尿失禁です。

切迫性という言葉はピーンと来ないかもしれません。医学用語は難しいのが難点ですが、要は強い尿意と思っていただければよいかと思います。水の音を聞いただけで、水を触っただけでおしっこに行きたくなるということは、患者さんにお聞きすると結構あるようです。患者さんはそれが自分だけに起こっていると思い込んでおられ、私がそんな方はたくさん居られますよとお話しするとびっくりされることが良くあります。

解説すると人は高等動物なので、記憶や行動パターンというものが大脳にインプットされています。おしっこに悩んでいる方は、水や液体状の流れるものを見たり聞いたりするとおしっこという情報と直結してしまうようです。つまり、おしっこのことで悩んでなければそのような回路はできず、水は水、おしっこはおしっこと別々の情報として存在するのですが、悩みのある方の場合、変な回路ができてしまうというわけです。

通常このような患者さんの場合、どのようなことが膀胱で起きているのでしょう?普通の状態では、尿がたまりだすと膀胱は徐々に膨らんでいきます。若く柔らかい膀胱であればどんどん溜まりますので300-400mlは十分に溜まるでしょう。お年を取って硬くなった膀胱でも通常は200-300ml溜めることができるはずです。いっぱいになるとパンパンになり膀胱の内圧が上昇し、ここで知覚神経が刺激され脳に刺激が伝わります。そこで脳からおしっこに行きなさいという命令が伝わりトイレに行って排尿するということになります。

切迫感のある方、切迫性尿失禁になる方の場合、膀胱の壁が不安定で、少し尿が溜まっただけで膀胱が自分の意思とは関係なく収縮を始めてしまい、膀胱内圧が上昇し、刺激を脳に伝えてしまいます。そのためまず頻尿という状態が起ることが多いです。また、その収縮がひどくなると内圧はどんどん高くなって切迫感といわれる強い尿意となります。その内圧が括約筋の尿を止めようとする圧力を超えると失禁という状態になります。特に、前立腺肥大症の男性や脳梗塞をされた後の方に多く見られます。冷えや疲れをきっかけに起るものや原因不明のものも有ります。

治療は、この膀胱壁の不随意の収縮を止めてしまうことから始めます。抗コリン剤といわれる薬が非常に有効で色々な薬が内服可能です。副作用は、唾液腺に同じ作用部位があり、ここを止めてしまうために口渇が起る方や、膀胱の筋肉と同じ平滑筋をもつ腸の動きを止めてしまうため便秘になってしまう方が居られます。また、緑内障を患っておられる方は、眼圧が上昇して悪化することもあります。しかし現在は、副作用を抑えた新薬も開発され使いやすくなりました。

前回の腹圧性尿失禁と同様、おしものことなのでとか歳のせいだからとか泌尿器科を受診することをためらっている方は、決して自分だけの病気ではなく有効な治療法があることを是非知っていただきたいと思います。